むちうちは、交通事故による傷病の中でも最も発生する確率が高いものです。
むちうちでの慰謝料は、3ヶ月通院した場合で53万円が相場となっています。
ただし、この金額は示談交渉がうまく進んだ場合の理想的な金額であり、示談交渉の内容によってはそれ以下の金額しか支払われないこともあるので注意が必要です。
この記事では、交通事故でむちうちを患ったときの慰謝料の計算方法・請求方法などについて解説します。
もしものときのために、しっかり把握しておいてください。
目次
むちうちとは何か?

むちうちとは、ひとことでいうと「首の捻挫」です。
交通事故などによって首や頭部に強い衝撃を受けたことにより、痛みや不調を感じるようになります。
首や頭部に衝撃を受ける際に、ムチのように首が大きくしなることから「むちうち」と呼ばれています。
医師から発せられる正確な診断名は「頸椎捻挫」または「外傷性頚部症候群」となるのが一般的です。
むちうちに関する基礎知識として、以下の2点を押さえておいてください。
- むちうちの症状
- むちうちのリスク
むちうちの症状
交通事故に遭ったあと、以下のような症状がみられる場合はむちうちを患っている可能性が高いです。
- 首が痛む・動かしにくい
- 顎関節が痛む
- 頭痛やめまいなどの症状がある
- 耳鳴りや吐き気などの症状がある
- 集中力を持続できない
- 手先がしびれる
- 睡眠が浅い・寝つけない
これらの症状がみられるときは、速やかに医師の診察を受けましょう。
できるだけ早めに医師に診察してもらうことで、より適切で効果的な治療を施してもらえるはずです。
むちうちのリスク
むちうちは、事故発生から遅れて症状が現れることも多くあります。
事故の2~3日後、もしくは数週間経ってから症状が現れることもあるので油断できません。
事故から日数が経っている場合も、事故とは関係ないと思わずに速やかに医師の診察を受けましょう。
また、事故直後に外傷を追っていない場合は物損事故として処理されている可能性があります。
後日むちうちの症状が現れた場合は、医師の診断書を持って警察署に出向き、人身事故として書き替えてもらってください。
物損事故として処理されてしまうと、慰謝料や保険料をもらえないことになるので注意しましょう。
慰謝料とは何か?

むちうちの慰謝料の金額や請求方法を知る前に、慰謝料とは何なのかを今一度理解しておきましょう。
- 慰謝料の基本的な考え方
- むちうちで請求できる慰謝料の種類
- 慰謝料の請求条件
慰謝料の基本的な考え方
交通事故における慰謝料とは、事故によって負った肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金のことを指します。
ただし、事故によって破損した車の修理費、通院による治療費とは違い、肉体的・精神的な苦痛に対する賠償を金銭に置き替えるのは非常に判断が難しいところです。
むちうちを患った際の適正な慰謝料を請求するなら、弁護士に相談しながら手続きを進めていった方がいいでしょう。
むちうちで請求できる慰謝料の種類
交通事故によってむちうちになった際は、以下の2種類の慰謝料を請求できる可能性があります。
入通院慰謝料 | 交通事故によって傷病を患い、通院が必要になった際に請求できる慰謝料 |
後遺障害慰謝料 | 一定の水準以上の後遺症が残ると診断された場合に請求できる慰謝料 |
また、後遺障害慰謝料を受けとるためには、医師から「後遺障害等級認定」を受けるのが必須です。
後遺障害等級認定を受けるには、以下の5つの条件を満たす必要があります。
- 傷病が治ったあとも何らかの症状が残り、傷病と因果関係がある
- 回復が見込めない
- 医学的に認められている
- 事故の後遺症によって、労働能力を失う
- 6ヶ月以上の治療のあとに症状固定となった
慰謝料の請求条件
交通事故によって負った傷病の慰謝料を請求するには、警察に事故を人身事故として処理してもらう必要があります。
物損事故として処理されてしまうと、車などの修理費のみしか請求できないので注意してください。
また、慰謝料を請求するには医師からの診断書が必要です。
正当な慰謝料を請求するため、また自身の身体のためにも、交通事故に遭ったらできるだけ早く医師の診療を受けましょう。
むちうちでの慰謝料の相場はいくら?

むちうちでの慰謝料相場は、以下の表のとおりです。
実通院日数 | 自賠責基準 |
---|---|
10日 | 8万6,000円 |
30日 | 25万8,000円 |
50日 | 38万7,000円 |
70日 | 38万7,000円 |
通院月数 | 弁護士基準 |
---|---|
1ヶ月 | 19万円 |
2ヶ月 | 36万円 |
3ヶ月 | 53万円 |
自賠責基準・弁護士基準の違いや慰謝料の計算方法は、次の章で解説します。
慰謝料の計算方法

交通事故でむちうちになった際の慰謝料には、3つの算定基準があります。
どの算定基準を用いるかによって、計算方法や慰謝料の金額も変わってくるので把握しておいてください。
- 慰謝料の算定基準
- 慰謝料の具体的な計算方法
慰謝料の算定基準
慰謝料の算定基準とは、損害賠償金を計算する基準のことです。
算定基準 | 概要 |
---|---|
自賠責基準 | 被害者が負った損害に対して、法令で定められた最低限の保証をおこなうことを目的として定められた基準 |
任意保険基準 | 書く任意保険会社が独自に定められた基準 金額等は公開されておらず、自賠責基準より少し高めの金額を設定されている場合が多い |
弁護士基準 | これまでの裁判所による判例を参考にした基準 他の2つの基準に比べて、高額な慰謝料が算定されやすい |
一般的に、多くの交通事故の慰謝料は加害者・被害者双方が加入している保険会社同士による協議によって、任意保険基準で算定されることが多いようです。
しかし、加害者が任意保険未加入の場合は自賠責基準で算定されるのが通常です。
被害者が弁護士を雇った場合は、弁護士基準に基づいて交渉されます。
慰謝料の具体的な計算方法
慰謝料の具体的な計算方法は、算定基準によって違いがあります。
任意保険基準は各保険会社によって計算方法や金額が違ううえに、それらの詳細は公開されていません。
よって、自賠責基準・弁護士基準それぞれの計算方法を紹介します。
自賠責基準の場合
自賠責基準は、以下の2つの計算式で計算し、金額が少ない方が適用されます。
- 4,300円×通院機関(初診日から最終診察日・リハビリ日までの期間)
- 4,300円×実際に通院した日数の2倍
※ただし、2020年3月31日以前に発生した交通事故に関しては、日額が4,200円で計算されます。
弁護士基準の場合
弁護士基準の慰謝料は、実際の裁判の判例を基準として計算されます。
そのため、もっとも適切な慰謝料金額を算定できる基準だといえます。
入院月数 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 4ヶ月 | |
通院月数 | 0 | 35 | 66 | 92 | 116 |
1ヶ月 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 |
2ヶ月 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 |
3ヶ月 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 |
4ヶ月 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 |
弁護士基準の計算式は、自賠責基準とは違い通院日数は問われません。
むちうちによる慰謝料の請求方法

交通事故でむちうちになった際の慰謝料を請求する流れや、示談交渉のポイントについて解説します。
慰謝料請求の流れ
むちうちの治療を始めてから、慰謝料を請求するまでの流れは以下のとおりです。
- 症状が固定するまで通院する
- 後遺症が残る場合は後遺障害等級認定を受ける
- 示談交渉をおこなう
- 示談書の作成
- 慰謝料支払い
症状が固定するまで通院する
慰謝料の示談交渉は、むちうちの症状が完治または固定するまでは始められません。
事故発生からすぐに示談交渉を始めても、その先にかかる治療費などが確定できず、示談した金額と実際にかかった治療費・交通費などに不一致が発生してしまうためです。
また、治療が長引いた場合は加害者側の保険会社が治療費の支払いを途中で打ち切ってくることもあります。
その場合でも、まずは症状が完治または固定するまで、健康保険を使いながら通院を続けることが先決です。
後遺症が残る場合は後遺障害等級認定を受ける
むちうちの後遺症が残る場合は、後遺障害等級認定を受ける必要があります。
後遺障害等級認定とは、後遺症の程度を表す指標のことです。
等級は1~14まであり、1に近づくほど後遺症が重度になります。
示談交渉をおこなう
症状が完治または固定し、後遺障害等級認定を受けたら、加害者側の保険会社と示談交渉をおこないます。
話し合いの主なポイントは、以下の3点です。
- 損害の内容
- 損害の評価額
- 過失割合の認定
損害の内容
示談において、損害の内容を明確にしていきます。
交通事故による損害として、主に治療費・休業損害・慰謝料が挙げられます。
被害者自身も、どの分野に関してどれくらいの損害を受けたのかを明確に把握しておくことが大切です。
損害の評価額
前章で解説した、慰謝料の算定基準を話し合います。
どの算定基準を用いるかによって、慰謝料の金額は大きく上下します。
被害者が弁護士を雇っている場合は、弁護士基準が適用されるのが通常です。
過失割合の認定
過失割合とは、交通事故において加害者と被害者の過失の度合いを数字で表したものです。
加害者側の一方的な不注意によって事故が発生した場合は、当然全ての被害に対する賠償金を支払う必要があります。
しかし、場合によっては被害者側にも過失があるケースもあるでしょう。
その場合は、過失割合によって受けられる賠償金の金額が変動することになります。
示談書の作成
示談内容がまとまったら、双方の合意のもと示談書を作成していきます。
示談書には、事故の内容・示談金の金額や支払い方法を記載し、加害者・被害者双方が署名・捺印をします。
一般的に、示談書は加害者側の保険会社が作成してくれ、被害者は内容を確認して署名・捺印するだけで結構です。
ただし、一度署名・捺印をすると、示談書に記載された内容の変更はできなくなります。
示談書に記載された内容を隅から隅まで確認したうえで、署名・捺印するようにしてください。
慰謝料支払い
示談書に記載されている支払い方法・支払い期日に沿って、慰謝料が支払われます。
示談書で締結された内容と相違なく支払われたか、必ず確認するようにしましょう。
まとめ
交通事故に遭ったことによってむちうちになってしまった場合、慰謝料を請求するにはまず「警察に人身事故として処理してもらうこと」が必須です。
事故直後に症状がみられなかった場合は物損事故として処理されている可能性が高いので、診断書を持って警察に相談を持ち掛けましょう。
また、慰謝料の請求・示談交渉を始めるまえに、通院を続けて治療を完治または固定する必要があります。
慰謝料の金額は、どの算定基準を用いるかによって大きく変動するので注意が必要です。
適正な慰謝料を請求したい場合、示談交渉をスムーズに進めたい場合は、弁護士への相談をおすすめします。